
ここ数年、日本でもSpireteを含めてスタートアップスタジオを標榜する会社がいくつか出てきています。本記事ではSpirete代表の中島徹が「スタートアップスタジオとは何か」を解説してまいります。
そもそも「スタートアップ」の定義は?
スタートアップスタジオの定義は後述するが、「そもそもスタートアップって?」という議論が抜けているのでは、と感じている。設立直後の企業ならスタートアップなのか?それは中小企業と何が違うのか?設立後の期間が過ぎているとスタートアップではないのか?
私が考える「スタートアップ」について
【スタートアップとは?】
「起業」や「新規事業の立ち上げ」を行い、
革新的なイノベーションや新たなビジネスモデルを構築し、
限られたリソースの中で、短期間で急成長して新たな市場を開拓する企業や組織のこと。
つまり、期間や形態は特に関係なく、「爆発的な新しい事業が創れるのか?」ということが極めて大事な点である。
爆発的な新しい事業を創るには?

爆発的な新しい事業を創っていくには、革新的な技術を含むイノベーションや新たなビジネスモデルはもちろん重要だが、それだけでは成し得ない。
爆発的な新しい事業を創るポイント
参入する業界や市場を熟知していて、特に肝となるポイントや突けそうなウィークポイントを知っていることは、とても有利に働く。
少ないリソース(人員・資金)を有効活用するので、一人一人がしっかりと手を動かして実務を行う。そしてその実務は、豊富な経験/知識/ノウハウに裏打ちされたものであれば、極めて有効に働く。
ハードワークは重要だが、ただ辛くて大変なのではなく、スタートアップで成長する経験ということ自体はとても楽しいものである。少ない人員であるからこそ、チームワークを発揮して楽しんで成長していくという姿勢や、仕事に対するスタイルの柔軟性などが大事になる。
大企業ではできない大きなリスクを取り、限られたリソース(人員・資金)を有効活用し、極めて素早い意思決定を行うことで、急成長・急拡大していく。
ベンチャーキャピタルの新しい流れ
リスクを取るということは、失敗する可能性も高い。
ベンチャーキャピタルは、このリスクをマネージするために、古くからEntrepreneur in Residence(EIR)と呼ばれる制度がよく取られてきた。EIRとは、成功した起業家やシリアルアントレプレナー(連続起業家)がVCに所属し、投資責任者であるGeneral Partnerをサポートする仕組みのことだ。
サポート内容としては例えば、 ー 事業経験や創業経験、または特定の技術の知見などを元に、VCに持ち込まれた案件の目利きや、投資先のバリューアップをサポートする。 ー 並行して、自分の次の起業アイデアを考え、起業に至る場合は、所属しているVCが優先的に投資検討できる、といったことが挙げられる。
日本でも少しずつ、起業家/技術者/事業経験者のVCが増えてきて変わりつつあるが、シリコンバレーのAndreesen Horowitz(a16z)やGoogle Venturesなど、内部に技術者/事業経験者/デザイナーなどのチームを抱えて、より実務に近い具体的なサポートをするVCの成功例が増えてきている。
多くのVCは、ポートフォリオへのハンズオンサポートを行うと言っているが、事業経験の少ないVC担当者からは、実際のハンズオンサポートが少なかったり、行えなかったりしていた。a16zのように実務を具体的にサポートするVCは、リスクの高いスタートアップの成功率を上げている。
スタートアップを創る、様々なスタイル
起業家側も、リスクの高いスタートアップの成功率を上げるために、様々なスタイルでの起業が増えてきている。

【スタートアップを創る、様々なスタイル】
①起業家や技術シーズがまずあり、それをベースとしたアイデアやビジネスプランに対して、人を集めて起業するパターン こちらは、皆さんがイメージされている通常の起業・スタートアップの設立方法だ。 スタートアップに必要な、「人材(人)」・「技術やビジネスプラン/戦略(モノ)」・「資金(カネ)」をゼロから集めなければならない。 オーソドックスな方法だが、ほぼ全てが無い状況から進める必要があり、多大な労力と時間がかかり、コアとなる起業家(社長)の能力と経験値に極めて依存する。
②シリアルアントレプレナー、又は企業などで一緒に仕事をしたチームを中心に起業するパターン シリアルアントレプレナーとして起業の成功事例がある連続起業家と、その周りの一緒に仕事をした事のあるチームや、起業はしていないが何処かの企業や事業部門などで一緒に仕事をしていたチームが起業するケースだ。 この場合、人材はある程度集まっている、かつ過去の起業時や大企業内などでチームを組んで仕事していたため、お互いの仕事上の得意/不得意や趣向を概ね把握しており、チームアップが非常にスムーズに進む。 そのため、投資家も起業家の能力や経験値のみではなく、それをチームで補完し合う体制が見えているので、「技術やアイデアのブラッシュアップと事業成長にこのチームがどうフィットしそうか?」という観点で評価が可能である。つまり、1つ目のオーソドックスなケースよりも、人材面でのリスクを下げているために、資金も集まりやすい。
③ニーズやアイデアの設計図がまずあり、それに経営チームを集める起業パターン 個人的には日本では少ないなと感じているので、馴染みが薄くイメージし難いかもしれないが、シリアルアントレプレナーが何度も成功した後(失敗も含む)、このような形で事業を始めるケースがある。 何度も成功したシリアルアントレプレナーは、特定の業界や技術領域に長けているので、次に成功しそうなニーズやアイデアを思い付き、それが成功に結びつくケースが多い。 自分で事業を立ち上げるシリアルもいる一方で、既に何度か成功しているので、その見えているニーズやアイデアに対して、こんな人材をチームで集めると良いなという設計図を描き、その必要な人材をチームアップし、シリアルアントレプレナー自身は最初の投資家として資金を出すというケースもある。(恐らくだが、渋沢栄一が多くの企業を創った時もこれと同じ様なケースもあったのだろう)
スタートアップスタジオは、3つ目のケースにとても似ていると感じており、ニーズやアイデアの設計図を創って、起業チーム/経営チームを集めていくというのが目指すべき姿だと考えている。
スタートアップスタジオの定義
スタートアップスタジオの定義は「スタートアップを内部から継続的に生み出していく仕組みを持った企業や組織」である。Startup factory、Startup foundry、Company builder、Parallel Entrepreneurshipなど、様々な呼ばれ方がなされているが、スタートアップを創るために、以下3つを内部で保有または提供しており、これらが起業のリスクを下げている、と考える。
【スタートアップスタジオで保有するもの】 ・人 :人的リソース ・モノ :技術やビジネスモデルなどのノウハウ ・カネ :資金
そして、スタートアップ/新規事業の創出を進めていくためには、多くの機能が必要である。会社運営にも多くの機能が必要である一方で、それらの機能は、1つの会社のために用意しても、複数の会社で共用しても、コストや労力としては比例して増えることはない。
スタートアップスタジオでは、各社によって特色や提供できるものに違いがあるが、一定の部分をスタジオが共同保有するリソースとして、内部から創出されたスタートアップチームに提供し、外部の協力者や外部資金も募りながら、複数のビジネスを同時並行で事業化している。
スタートアップスタジオとは、失敗例を含む複数のスタートアップ/新規事業の事例を、スタートアップ内部の経営チームの一因として積み重ねることで、リスクの高いスタートアップの創業/成長リスクのマネージを試みているのである。
インキュベーターやアクセラレーターとの違い
スタートアップスタジオを創業すると話し始めたのが、2018年の夏頃だが、その際あらゆる方に「インキュベーターやアクセラレーターでしょ?何が違うの?」とよく聞かれた。 似ているように見えるが、個人的にはかなり違うものと考えている。
インキュベーターやアクセラレーター
3ヶ月や6ヶ月などの、バッチと呼ばれる期間を設定しており、バッチごとに募集
応募してきた創業チームに対し、メンターが外部からメンタリング
少額の資金を提供して、5%のシェアを取得(資金提供/シェア取得がないケースも)
最後にDemo Dayを開催し、本格的な資金調達を外部から募る
スタートアップスタジオ
内部の事業経験者/創業経験者/技術者/デザイナーなどがチームを作り、事業化のネタを複数作る
外部メンバーや応募してきた起業家や技術シーズに、内部のチームをメンバーに入れてチームを組成又は補完する場合もある
共同創業者の形で40%や50%など、大きな創業時シェアを持つ場合が多い
一定程度のPoCなどを経て、外部からの資金調達を募る
大きな違いは、インキュベーターやアクセラレーターは外部からメンタリングサポートするのに対して、スタートアップスタジオはメンバーの一員として内部に入り込む点が大きく異なる。 創業者と同じように内部に入り込んで実際に手を動かすので、多大なコスト負担を含むリソースを割く代わりに、創業者と同様に起業初期メンバーとしてのシェアを保有する形である。
ただ、誤解のないように申し上げると、インキュベーターやアクセラレーターを否定している訳では決してなく、Y Combinator / 500 startups / Plug & Play / Techstarsなどの多くの成功しているインキュベーターやアクセラレーターはある。 下記記事でも紹介している通り、スタートアップスタジオは、海外でも成功例が出てき始めた、新しいスタートアップの創り方の一つである。
Spireteのスタートアップスタジオの形

Spirete(スピリート)では、大企業や大学研究機関から預かった事業アイデアや技術シーズをもとに、大企業人材や大学研究機関の人材、フリーランスや副業人材など、異分野の技術と異業種/業界の専門知識や経験を組み合わせ、グローバル規模での資金調達・事業展開に挑戦できるスタートアップの創出を目指している。
特にSpireteが取り組んでいるプロジェクトは、ディープテックを含む革新的なテクノロジーをベースにしたものや、新しいビジネスモデルや発想/アイデアをベースにしたもの等を中心に据えている。
そのため、事業化やR&Dには経験豊富な人材が必須であり、Spireteの会員企業やコミュニティメンバーとして事業立ち上げに協力してくださっている方々の深い知識や経験が、各プロジェクトの推進に役立っている。
また、Spireteのプロジェクトは常にグローバルな目線を意識しており、国内に閉じず、グローバルに拡大出来るスタートアップの創出を目指している。
最後に、「リスクを取って貢献した人にフェアなリターンを」という考えを大事にしており、多くの協力いただいている方々と共に成功を喜べる形が、我々が目指している形である。
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