石油に代わる新しい可能性、微細藻類を培養して作られる「ソラルナオイル」の活用・普及に取り組むサキュレアクト。「環境負荷がかかるもの、ゴミになるものは作らない。」そう語る同社代表の塩原さんに、Spireteを通じて出会った”微細藻類”の可能性や起業の経緯、今後の展望について伺いました。
塩原祥子/サキュレアクト代表
広告代理店勤務時大手化粧品メーカーを担当、その後2003年からスタートアップの化粧品企業で製品企画などに携わり、25年化粧品業界で従事する。2023年3月から現職。
広告代理店で大手化粧品メーカーを担当した後、化粧品メーカーで製品企画や事業責任者として働き、最後に従事していた会社がドラッグストア流通メインのブランドを展開していたため、そこで大量の返品商品の廃棄を目の当たりにした塩原さん。
「自分はゴミしか生み出していないのでは……。」と本気で感じ、化粧品業界からの卒業を決意したといいます。
そんな塩原さんが再び化粧品業界に戻るきっかけを作ったのが、J-POWERが進める「微細藻類(びさいそうるい)」プロジェクトでした。
微細藻類は、肉眼では見えないほど小さい生物で、通常の植物と同じく光合成を行います。その結果、地球の大気における酸素の約半分が生成されていると言われています。また、光合成によってさまざまな有用物質を生み出すことができるため、幅広い分野での利用が期待されています。
J-POWERは2002年より微細藻類の研究を開始し、微細藻類から作られる「ソラルナオイル」をSAF(Sustainable Aviation Fuel/持続可能な航空燃料)に活用する取組みを進めてきました。さらに2022年からは、Spireteとともに高付加価値製品事業への活用の検討を開始しました。
この時のSpireteの投稿をきっかけに、塩原さんは微細藻類と出会い、「ソラルナオイル」を石油の代わりに原料として活用・普及させるためサキュレアクトを起業しました。
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——「微細藻類(びさいそうるい)」に出会った時、どんなことを思いましたか。
これが石油の代わりに資源になるなら面白いなと、まず思いました。
微細藻類を培養して抽出したオイルは石油に代わる原料として化粧品にも使えるし、プラスチックの原料にもなるため容器にも使える。その他の可能性もたくさんあるな、と。
加えて、J-POWERのプロジェクトであるならば、最後の量産までやり通してくれるだろうという強い期待がありました。
そして調べれば調べるほど、やったほうがいいというよりも、地球のためにこれはやるべきことだという思いが強まりました。今まで色々な角度から化粧品業界に関わってきましたが、ビジネス人生の最後に取り組むべき事業だと思いました。
——起業の際に苦労したことはありますか。
苦労どうこうより、覚悟の問題だと思っていました。これは本当に自分がやるべきことなのか?腹落ちするため、覚悟を決める時間が必要でした。
ただこのような新原料の活用は大手企業よりも、小さな企業だから機動力をもってやることができるという確信があり、覚悟が決まりました。
——「ソラルナオイル」を原料として活用していくにあたり、課題はありますか。
原料として他社に支給していくには大量かつ安定的に生産する必要があります。その部分は大規模生産に向けて規模の拡大を数年中に実現できるように計画する必要があります。どんどん地球は壊れていってしまうからこそ、こちらもスピード感を持って解決していきたいと考えています。
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サキュレアクトでは、環境問題への取り組みのひとつとして、自社ブランド「530(FIVE THIRTY)」から肌と地球にやさしい化粧品の提案も行っています。昨年夏には第一弾として天然由来成分99%配合の石鹸「sea design soap」を販売しました。
——「530」のブランド理念を教えてください。
ブランド名は「530(ゴミゼロ)」が由来です。そのためマイクロプラスチックになるようなものは使わないなど、ゴミになるものや環境負荷になるものは作らない、という理念を掲げています。
そして、作ったものがちゃんと循環できるようにしたいと考えています。今後、容器が必要になる製品を作ったとしても、容器まで回収して再利用するなど、作った人が最後まで責任を持てるようなものづくりをすると決めています。
——製品を作る上でこだわっている点はありますか。
原料ひとつ取っても、どこで、どんな背景で作られているのか調査し、理解した上で使用するようにしています。
例えば、身近な化粧品や食品によく使用されている「パーム油」。生産の裏には森林破壊、子供の不法就労などの問題があるため、使用しないと決めています。
世界中から原料を仕入れている業界ですので、原料の背景を追及することは簡単なことではありません。ただ、情報開示に協力してくれる企業だけと付き合いをしていきたいと考えています。
——ブランドや製品を通して、伝えたいことを教えてください。
第一弾として「家の中からひとつプラスチックを減らしてみませんか?」という提案をしたいと思って石けんを作りました。ハンドソープが石けんに代わることでプラスチックの容器を使わなくなりますし、変化がわかりやすいですよね。
またこの石けんは海洋性をテーマに、一つ一つが海の状態を表現したデザインになっています。小さくて角ばっているし、使い勝手はあまり良くないかもしれないけれど、この石鹸が目に入るたびに「環境問題に対してできることはなんだろう?」と少しでも考えてもらえたら嬉しいなと思っています。
海底の砂漠化やプラスチックが浮いた海など、海の課題をテーマにデザインされた「sea design soap」
——ブランドや製品を知ってもらうために、現在どのような活動をされていますか。
インスタグラムで環境問題に関する情報発信をしています。多くの人が環境に配慮したものを選べるようになることが重要だと考え、製品を売るためではなく、いま本当に起こっていることを理解してもらうために発信を続けています。
消費者の選び方が変わらないと、小売やメーカーの意識もなかなか変わりません。知らないと行動も起こせないし判断もできないから、まずは環境について知ってもらうために情報発信を続けています。環境問題について知りながら、最後に選んでもらえる製品になったらいいなと。
またSNSの発信はイラストを多用するなどの工夫をしています。環境問題は気持ちも暗くなる情報も多いので前向きに受け止められるようにかわいいイラストで展開しています。
@team530_japan
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J-POWERの「微細藻類(びさいそうるい)」プロジェクトと塩原さんを引き合わせ、その後の法人化支援を行なったのがSpireteの「起業プログラム」でした。
——会社設立時、Spireteからどのような支援がありましたか
設立までの事務的なサポートから、J-POWERとのやり取りまで、さまざまな支援がありました。起業/投資経験が豊富なSpireteスタッフだからこそ、投資家の目線でも、会社として何が足りないかも平等な目線でアドバイスしてもらえたのは助かりました。
——今後、予定しているイベントはありますか。
ようやく6/10に「ソラルナオイル」を配合した石けんが発売になります。
今後、デジタルメディアと共同のリアルイベントや記事発信を予定しているので、多くの方に製品を知っていただけたら嬉しく思います。
——今後の展望を教えてください。
プラスチックをすべて、”微細藻類”に変えたい!
今は買い物に行くたびにすべてプラスチックにパッキングされた商品ばかりです。この部分がCO2が発生しない原料になったら、何も考えずに買い物していて環境負荷がないものを選べるようになったら素敵だなと思っています。そのためにも「ソラルナオイル」を早く原料化して流通させたいと思っています。
——ありがとうございました!
■サキュレアクト株式会社:https://circureact.com/
Spireteは、大企業・大学研究機関・フリーランス・副業人材など、多種多様な専門知識や経験を組み合わせ、ゼロからのスタートアップ創出を目指すスタートアップスタジオです。
また企業さまの新規事業の出口として、”社内の新規事業をスタートアップとして切り出す”提案もしています。事業立ち上げや投資経験豊富なSpireteメンバーが、切り出した事業がスタートアップとして自走できるまで伴走します。サービス概要について詳しくはこちらをご覧ください。
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